矢絣の模様は年齢制限がある? 誰でもいつでも着て欲しい幸福を呼ぶ吉祥模様?!
矢絣は「やがすり」と読みます。決して武器の話ではありません。お着物好きなら分かりますよね。矢と付きますが的を目指して飛ぶことのない矢絣。現代では目にする機会が期間限定になりつつもあります。
歴史の中にも度々矢絣は登場します。登場するシーンそのものがあこがれの場面となることも。好きが高じた結果コスプレで変身しちゃって、その時代の気分に浸る人もいるようですね。
私も矢絣が大好きです。でもコスプレ的な装いは事故になりそうなので遠慮したいと思います。
限定的に使うだけではもったいない。途切れることなく長く続くための理由にも納得。武器からイメージした模様だけど矢絣は平和な幸福をつないでくれる? 普段使いのハッピーアイテム!
矢絣ってどんな模様? 時代劇とアニメで見たことある??
矢絣模様は着るだけではなく、千代紙や風呂敷など和柄の代名詞でもある矢絣模様。矢絣の漢字が表すように矢にインスパイアされた模様です。古くから継承されている矢絣模様には何か意味があるのでしょうか?
矢絣に袴♪女子の門出を彩ります!
江戸時代には矢絣はとても重要な意味を持っていました。その意味とは?
飛んで行った矢は戻ってきません。このことから結婚した相手の家から戻ることが無いようにと願いを込め、婚姻に際して娘に矢絣模様の衣装を持たせました。
狩猟の道具や武器として歴史の長い弓矢。矢を放って対象物に刺さる部分が矢尻(やじり)、反対側についているのが矢羽(やばね)。本物の鳥の羽を使って作ります。
矢絣の模様のパターンの元になった矢羽は矢が飛ぶときの方向を安定させるためについています。飾りではありません。弓矢にとってとても重要な役目を持っているのですね。
矢が飛ぶ姿は厄を祓い除けるにもイメージできます。江戸時代には武士の礼装の下に着る小袖に矢絣が使われています。
「戻らない・厄払い」から矢絣は吉祥模様として今でも人気の和柄です。
矢絣はホントに絣なの?
着物は大きく2つに分けることができます。布に模様を染める「染め」色を付けた糸で織る「織り」に分かれます。矢絣は「織り」の仲間。
矢絣は染めた糸を経糸(たていと)に使う経絣(たてがすり)の技法で作られた「織り」の着物です。染めは格上の着物で織りは普段着扱いという着物カーストは今も活きていますね。
矢絣は今では有名産地となった地域で生産された絣織りが、多く愛用されていました。一般に広まってからは銘仙絣(めいせんがすり)が普及。絣の代名詞、かすれ部分のある模様が大人気となりました。
日本には愛される模様が沢山あります。実はこんな意味もアリ? 市松模様の秘密はこちら♪
2色を使った矢羽のパターンではなく、大胆な色を組み合わせて作られた多色の矢絣は映えるオシャレ着。大正から昭和のインフルエンサーはコレを着て街を歩いたのでしょうね。
レンタルの矢絣の着物は、ポリエステル地に機械的に矢絣模様をプリントしたものがほとんど。でも絣糸で織られた矢絣のエプロンやバッグは現在も作られています。
かすれ感のある絣をリアルに見ることで矢絣の魅力が倍増します。
卒業式の矢絣と袴のルーツは?
「矢絣と袴」この組み合わせが真っ先に思い浮かびますか。1人の女子の奮闘と知恵がこの組み合わせを根付かせました。
明治に入り女子も教育を受けられる機会が出来てきました。着物で通学や勉学は動きが不便なので袴(はかま)の着用が考案されました。
ところが「女子が着物以外で行動するのはみっともない」とツッコミが入り袴は一旦禁止になりました。そこで立ち上がったのが日本の女子教育に奔走した下田歌子。
才気煥発を買われて皇室の子女の教育係を担当。その後明治18年に華族の令嬢が通う華族女学校に赴任しました。ここで制服として提案したのが袴。
再度猛反対されますが「身分の高い皇后の側で働く女子は袴を着用している」という理論武装で反論しました。これ以降女学校に通う女子たちに袴が広まりました。
袴との組み合わせは矢絣がダントツの人気を誇りました。女子の間で流行したのは「御召(おめし)の矢絣」絹糸の織物ですが糸を加工して生地にハリを出します。
撚りの強い糸で織ったあとに生地の糊を落とすと生地が縮んでちりめんができます。単なるちりめんではなく生地にハリとコシがあるので着崩れしにくいので制服にはピッタリでした。
袴と組み合わせる着物の柄に矢絣が選ばれたのは、江戸時代の縁起担ぎも関係しているのでしょうね。
明治の小説には女子学生を描写した一節があります。「白いリボンは清く、着物は矢絣の風通、袖長ければ風になびいて」ハイカラな女学生は注目の的でした。
昭和に入ってから洋装が一般に根付くまで、女学生のファッションとして矢絣と袴の組み合わせが続きました。
矢絣は「普段着使いの模様・女学生の制服」という理由から式典の卒業式には向いていない説もあります。現代では歴史を踏まえたファッションとして卒業式に着るのもアリという感じですよね?
この後の決意が込められた矢絣で新しい世界に飛び立ちましょう。
矢絣を着るときに決まりはあるの?
女子の間で広まったことから矢絣に関してこんな疑問や質問が出てくるのも仕方ありません。お悩み解決します。
【疑問その1】
矢絣を着るときに季節は関係しますか? 春以外にも着れますか。
【回答その1】
矢絣に季節はありません。桜や紅葉とは違います。卒業式のイメージがありますが、年間通して着用できる柄です。
【疑問その2】
矢絣は年齢を選びますか。既婚者のアラフォーが矢絣を着るのはNGですか?
【回答その2】
まず矢絣に年齢は関係ありません。女子の間で広まりましたが、矢絣が当初伝わったのは飛鳥時代。聖徳太子が見ていた御物にも使われ、今に至っています。
江戸時代には婚姻の時に持って行くことから、未婚女子限定の柄と思われてしまったようですね。でも結婚してから使うことを前提として矢絣を持参しているので、既婚者も着用可能。
一口に矢絣と言ってもパターンも色も無限大です。和柄の中でこれだけフレキシブルに使われる柄はそう多くありません。歴史ある吉祥模様の装いを楽しんで下さい。
【疑問その3】
学生ではなく学校側の職員として卒業式に参加します。袴と矢絣の組み合わせは、大丈夫でしょうか?
【回答その3】
お仕事お疲れ様です。年齢制限はありませんが卒業式であれば、矢絣は卒業生に相応しい柄。
大学側として参加するなら上は無地や地紋のある着物が合いますね。落ち着きと凛々しさで式に臨んで下さい。
矢絣というとどうしても縦に矢羽がつらなるイメージがありますが、矢羽を横位置で使った袋物を見ました。矢が飛ぶことを考えるとこの方向は本来の向きなのかも…と納得。それ位矢絣は自由です。
戻ってこないことから、兵役のある時代には戻ってきて欲しい男子は着用しないという縁起担ぎもあったようです。
平和な今なら文明の利器を使えば居場所も判明します。男子もぜひ矢絣模様で粋に決めて下さい。
平和な時代の旅立ちを飾る矢絣。この後も末永く受け継がれることは間違いありません。
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